Little AngelPretty devil
           〜ルイヒル年の差パラレル

      “ちょっと長いめの夏休み?”
 


今年の夏も随分な酷暑となっており。
何が“随分”かって、
七月を前にしての梅雨明け前から
真夏日ならぬ“猛暑日”が連日引き続き、
39度以上という、観測史上最高記録を、
しかも連日であっさりと更新したくらい。

 「それも
  コンクリートやアスファルトだらけで
  室外機や電算機の放熱も加わってっていう、
  ヒートアイランド現象が起きてるような都心じゃあなくて、
  果物で有名な甲府でだってのが うがってる。」

高原だったり気候が安定してっからってことで
瑞々しい桃だの葡萄だの
そりゃあ高品質なのが栽培され続けて来た土地なんだろに、

 「完全に自然現象、前線が好き勝手してるからってことで、
  この猛暑の直撃受けてるんだもんな。」

ちなみに、今現在の前線は、東北北陸で大暴れしているそうで。
その他の地域も、
暑さのあまり 午後になると雷雨に襲われている
“亜熱帯ですか”状態だそうですね。
だってのに、ここK市では全然降りません。
降るよという“注意報”が出ていても降りません。
降っても一瞬のとおり雨が、それも午前か午後に1回くらいです。
おかげさんで庭木がしなびています。
にわか雨が降るならと、なかなか思い切った水やりも出来ずです。
(だって、過分に撒くと蚊が出るし根腐れするし。)
さすが小雨地域の面目躍如ですよ、腹立つほどに

 「そうは言っても、もう今週には夏休みだものねぇ。」
 「そうなんですよぉvv」
 「となると、ここには来てくれなくなるのが寂しいなぁ。」
 「あ・でも、あたしたち、部活があるから通えますよぉ。」
 「でも、七月中だけでしょ?」
 「うあ、把握されてるしぃvv」

自然の風合いを生かした漆喰の白壁を、
窓の格子のチャコールの深色がきりりと引き締める。
都心のそれのように お高くとまっちゃあないけれど、
さりとて、いかにもご町内の集会所ですというノリで、
手作りのあれこれがごてごて氾濫してもない。
どちらかといや目立たないようにと構えているよな
至って清楚なシンプルさが、
警戒も先入観もないままにお客様えを招き入れているだけという、
今時の飲食業には奇特なほど 音無しな経営態度を、
開店当時からのずっと維持しておいでであり。
女学校経由の路線バスが幾つか通過する道路沿いだということでしか、
これという集客能力はないにもかかわらず、
一旦お運びになると…
店内の空気やら、供されるメニューの美味しさ・丁寧さ、
壮年マスターの物静かな渋さやら、ウェイター二人の麗しさやらに、
ついつい惹かれてしまってのこと、(おいおい、後半は何ですか)笑
リピーターにならずにはいられない店だとされてもいて。

 「こちら、マンゴーパフェと、
  ビスタチオクリームのパンケーキでしたね?」
 「は〜いvv」
 「ありがとうvv」

涼しげなパフェグラスには、
黄桃と見紛うつややかで肉厚なマンゴーがたっぷりと盛られ、
デコレーションには生クリームと特選ミルクのアイスクリーム、
アクセントにはラズベリーの砂糖煮、
コンポートが鮮やかな赤となって添えられており。
シンプルなプレートの方は、
ふわふわ軽やかに焼き上がったパンケーキが重なった上から、
ココナツミルクと絶妙に調合された、
淡い緑のビスタチオソースが掛けられていて。
生クリームのおまけには、
カシューナッツをクラッシュしたのがまぶされてもいて、
だだ甘くはない大人の風味を堪能出来る仕様。
おしゃべりはあくまでもオーダー待ちの間だけ、
注文を届けたら、ごゆっくり〜とカウンターへ引っ込むのが原則の、
小粋で二枚目なウェイターさんたちは、基本的には二人だけ。
年末だの沿線の学校行事との兼ね合いだの、忙しい時期にはバイトも募るが、
日頃は決まった時間帯しか込み合わないこともあって、
二人とオーナーのみにて 十分間に合ってしまうようで。

 「夏休みは暇になりそうな立地だってのも、
  実はわざとの選択なんじゃねぇの?」

 「何のことかなぁ。」

そちらさんも手が空いたらしい、
金のストレートヘアをうなじで束ねた、
なかなか端正な風貌のお従弟さんへ。
お揃いのギャルソンスタイルが、
だがだが、タイプ違いのせいで随分と印象も異なる相棒、
蛭魔さんチの妖一郎お父さんが、
やや意地悪そうに笑って突っ込む。
いかにもオーナーの趣味の店っぽく構えてるけど、
カモフラージュしている“内実”を思えば
いっそ白々しいんだよなぁと言いたいらしく。

  ……というのも

こちらのマスターと
その従業員であり、妖一郎さんのお従弟の七郎さん、
妖一郎さんが7年間行方を晦す事態を負うこととなった一件とも
こそりとつながりがある御仁らで。
様々な技術や知識に長け、体力も度胸もあっての、
ついでに人脈もあったものだから。
多方面から何かと頼りにされ、
早急にを優先されること、確実にを優先されることなどなどへと関わるうち、
腕も上がっるとともに名も上がり、
何かと便利がられて引っ張り出されているうち、
政治的に複雑な事態の収拾にまで、
彼なら任せて大丈夫と推挙されるような
立場というかレベルというかになってしまったから困ったもんで。
そんなの小説や映画じゃあるまいしと思うなかれ、

 例えば
 関係者に日本人がいたと判ると、あとあと面倒なことになるような、
 でも、早急に手を打たないとというような、

 「でないと、
  何の落ち度もなく、非力な一般市民が犠牲に…なんてこととかね。」

こっちにすりゃあ別に特別難しいことじゃないし、
処理出来る技術はあるけれど。
関わった国や組織が明らかになっては何にもならぬ、
よって、素性は明かしちゃなんねぇぞとされて送り込まれ、
済んだら自力で帰ってねという苛酷な現地解散だったのが、
妖一郎パパが家族を放ってうろうろしていたことになってる、
例の、7年掛けて関わってた事件だったのであり。
それへお膳立てから遺された家族のフォローや護衛を受け持っていたのが、
こちらのお歴々だそうだけれど。

 「…ま、表向きには勿論のこと内緒な話で。」
 「当たり前でしょうが。」

夏休みの予定にでも興じているかのような態度で、
屈託ない会話をしているように見せかけておいでだが、

 「実は明後日、○▲▲代表のお供でな。」

 “おいおい、今 内紛中の○○大使館の護衛って。
  エグイな、それ。”

実はそういう中身だったりするから奥が深い。
妖一郎さんの方は、当分顔が指さぬよう、
世間様からは身を隠しているようにとのお達しがあるため、
今のところはのんびりと“有給”扱いな身を楽しんでおいでなのだが、

 「何 言ってんの。」

ああまで大規模な“仕事”は、
本来、一人が一生かけて請け負う代物。
むしろ、妖一郎さんがこうして10年以内に帰国出来たのが奇跡に近いほどだとか。

 「だからってことで、その筋から重宝がられていないでもないけどな。」

それだけ優秀というか、こういうことへ向いてたのは認めるとしても。

 「あれより危険な仕事を持って来られたらどうすんだ、おい

誰かへの意趣返しとかどうとかじゃあない、
純粋に家族のところへ帰りたかっただけなのは判っているけれど。
それでも…もっとダメダメなトロさを発揮せんかいと、
成功をも逆に腐してしまうほど。
またもや危険な話へ投じられないかが、周囲の皆様には心配なことだそうで。

 「いくら腕利きでも、
  俺らが体張って“続いての”なんて話は持ってこさせやしないからな。」

 「おお、それは頼もしい。」

ちなみに、マスターもかつてその手の大仕事をこなしたお人で、
なので、まだまだそんな年齢でもないのに、
こうまで落ち着いたお立場に身をおいていらっさるとかで。

  出来る男ってのも大変なんだねぇ。

この国の、それも一般市民の方々には
せいぜいニュースで伝えられる遠い土地の話だったり、
どうかすると映画の中の話でしかなかったりするような。
ほんの昨日までは町並みだった瓦礫の山に身を潜め、
見つかったら言い訳の利かぬ武装でもある機関銃を抱え、
息をひそめて待機するような“現場”にだって
何度も足を運んでおいでの彼らだが。
そんな顔なぞ微塵も匂わせず、

 「七郎さん、御馳走様vv」
 「ああ、ありがとうございましたvv」
 「薫ちゃん、また九月にね♪」
 「は〜いvv」
 「きゃ〜ん。何なに、薫ったら…vv」

美味しいスィーツを満喫なされてお帰りの、
顔なじみの女の子らへと愛想を振っては、

 「こんのエロ親父。」
 「えろおーじ。」

金髪に色白な美貌の君というところが、
それぞれのお父様たちにそっくりなまま小さくなったよな おチビ二人。
今日はお店へお越しだったらしき、それぞれの愛する息子らから、
容赦なく そんな悪態をつかれておいでの、
お若いお父さんお二人だったりするのである。

 「こらこら妖一、くうちゃんに何教えてるかな。」
 「くう、そんな言葉使ったらメッでしょう。」

街路樹のポプラが光のモザイクのような木洩れ陽を落とす中、
夏休みまであと1週間を切りました。
どうか余計な波風は立てられませんようにねvv




  ● おまけ ●


 「……って、言ってるそばから、
  妖一郎、某国際企業のネットに侵入して
  何かやらかしたんだって?」

高見博士が何とか足跡消しといてくれたらしいけど、
一体 何やってんのと、
小声ながらも叱咤のお声を飛ばした七郎さんだったのへ。
カウンターにてグラスを磨く手が止まると、
妙に にんまり笑う妖一郎さんだったりし。

 「しょうがねぇだろよ。
  妖一が年に似合わぬ天才なもんだから、
  あちこちのデータベースを覗く
  好奇心を抑えられんらしくてさvv」

何で、本職に追われないようにって
陽動をちょっとねと笑ったお父さんへ、

 「…おいおい。」


  ……坊やの悪戯の後始末にもお忙しいらしいです、お父様。




     〜Fine〜  13.07.14.


  *最後のやり取りが書きたくてというネタものです。
   肝心な中身が“何のこっちゃ”な 例えばだらけ話ですいません。
   世界を股にかける凄腕エージェントのパパも、
   所詮は親ばかで、
   妖一くんの天才ぶりが目映くてしょうがないらしいです。

   …ハッキングとか クラックとか
   やっちゃダメでしょと、まず注意をせんかい(苦笑)

   お父さんが長いこと不在だったんで、
   頑張り過ぎて小さな悪魔になっちゃった妖一くんなのですが、
   そんな困ったパパに関わる経緯は、
   『
忘れたくとも思い出せない、ジレンマがトラウマになる前に…”』にて
   ちょろっと触れてますので、よかったらどうぞ。

ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv

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